働き方の変

働き方を変えるための準備としての知識

2018年問題「無期雇用転換ルール」について徹底解説!

安倍首相が自身の進退を賭けて(ですよね?)取り組む働き方改革。その中で「非正規雇用という言葉をこの国からなくす」と宣言しています。まずはそのための重要な試金石となるのが有期雇用の無期雇用転換ルール、一般的に2018年問題といわれるものです。

 

非正規雇用って?

非正規雇用に関する法的な定義はありません。通常は正規雇用以外の被雇用者を指します。そして正規雇用者とは通常期間の定めのない雇用契約を結んでいるものを指すのが一般的です。それに対して期間の定めのある有期契約で働く人を非正規雇用と呼びます。*1

不安定な非正規雇用の立場

たとえば契約社員や派遣社員、定年後の嘱託社員などがこれに該当します。契約社員の中には1年ごとの契約を10年も20年も更新している人もいます。実際についている業務も正規雇用と何ら変わらない場合さえあります。このように外から見るとほとんど正社員のような人でも「次回の契約更新はしない」の一言でいともあっさりと職を失う恐れがあるのです。*2

ポイントは労働契約法の改正

近年労働人口に占める非正規雇用の割合は4割近くに達しています。ワーキングプアに代表されるように将来に希望を抱けず不安を抱える労働者が多くいます。このような状況を改善するために平成24年8月に労働契約法が改正(平成25年4月1日施行)され「有期契約労働者の無期雇用転換ルール」が盛り込まれました。平たく言うと一定の要件を満たした有期契約労働者が申し込みをすれば無条件に無期雇用になることができる、というものです。事業主は申出でがあった場合に拒むことはできません。

無期雇用転換ルールって?

無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、有期契約労働者(契約社員、パートタイマー、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合、1回目の更新後の3年間に無期転換の申込権が発生します。

有期契約労働者が使用者(企業)に対して無期転換の申込みをした場合、無期労働契約が成立します(使用者は断ることができません)。

 

 (引用:http://muki.mhlw.go.jp/ 厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」より)

 

たとえば1年ごとの契約更新だった場合は以下の図のような感じです。

http://muki.mhlw.go.jp/img/sub_navi_pc.png

 (引用:http://muki.mhlw.go.jp/ 厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」より)

 

 5年経過して、6年目の契約期間中に「有期契約は今回で終わり!無期雇用にして欲しい!」と使用者に申し出た場合には7年目以降は無期雇用契約として自ら辞めるか、解雇されない限り基本的に定年まで勤めることができるようになります。無期雇用転換の申し込み対象となるのは改正法施行後の平成25年4月1日以降に結ばれた労働契約です。

2018年問題とは?

仮に平成25年4月1日~平成26年3月31日の1年間の契約期間の労働契約を結んでいたとします。

1回目 H25/4/1 ~ H26/3/31

2回目 H26/4/1 ~ H27/3/31

3回目 H27/4/1 ~ H28/3/31

4回目 H28/4/1 ~ H29/3/31

5回目 H29/4/1 ~ H30/3/31

6回目 H30/4/1 ~ H31/3/31  ⇦ 申込権獲得

 

つまり法改正後最初に無期雇用転換への申込権を獲得するのが今年4月1日からの契約期間中なのです。そのため今年有期契約労働者の多くが、無期雇用転換への申し込みを行うであろうと予想されています。これにどう対処するかが企業にとっての2018年問題です。

つまりこれまで雇用の調整弁として、何かあったら(実際にはそう簡単ではないものの)雇止めができた契約社員や派遣社員を期間の定めのない社員として受け入れなければならなくなる=人件費の負担が増えるのでは?という企業側の懸念が2018年問題の正体です。

クーリング期間とは?

注意点もあります。それは同一事業主との労働契約とその次の労働契約の間に契約がない期間が6か月以上あると、前回の労働契約期間は通算されずリセットされます。つまり無期雇用への申込権を得るには再び5年間の有期雇用の期間を経なければいけなくなるのです。これをこの労働契約がない期間をクーリング期間といいます。 *3

そして無期転換申込権を発生させないために、このクーリングを行うもしくは単純に雇止めをしようという動きが企業に生まれるのが2018年問題のもう一つの正体です。

無期雇用転換に関する懸案事項

実際に無期雇用転換制度によってかえって有期雇用の雇止めが広がるのではないか、という懸念は以前よりありました。今後実際の運用の中でどのような問題が出てくるか様子を見る必要があります。

おそらく無期転換を申し込めば不利益を受けたり、雇い止めにあったりする事例が出てくると思います。もちろんそれらは法律上は禁じられています。しかし救済されるためには会社と裁判等で争う必要があります。一般の労働者にとって裁判を起こすのは簡単ではありません。費用や労力、時間を考えるとそのまま泣き寝入りのような形で済ます人が多いことも予想されます。

安易な雇い止めは会社にとってマイナス?

会社にとっても無期転換しなければならないことを嫌って、安易に雇い止めをすることは必ずしもお勧めできることではありません。5年以上勤務しているということは、自社の業務に精通している貴重な人材でもあるということです。業務そのものが無くなる、もしくは著しく縮小するというのであれば別ですが、新しく人を採用して一から教育する。採用コスト、教育コスト等を考えればベテラン社員を雇い続けた方が会社にとってメリットが大きいとも言えます。無期雇用は会社にとって負担できしかない、というよくわからない世間の空気に左右されずに、自社にとって必要な人材かどうかをしっかりと判断する必要があります。

 会社にとって必要な人材は何かを明確に

無期雇用転換ルールはまだ始まったばかりなので、これからいろいろな事例が積み上がるのを待つ必要があります。労働者にとっては、会社に無期雇用として雇いたいと思わせるような実績を積んでいくことが求められます。そうすれば極端な話、どこでも通用する人間に自ずとなれます。一方で会社にとっては、人手不足の折、優秀な人材の繋ぎ止めとして制度を有効に使うことを考える方が長期的に見れば得策だという方針をとる方が合理的です。

無期雇用転換ルールは、本来雇用の安定のために考えられた施策ですが、自社の人的資源の底上げに活用するというのも一つの方法といえるのではないでしょうか。

*1:もちろん世の中には雇用期間の定めのないパート、アルバイトがいます。彼らは正規雇用かと言われればもちろん違います。しかし日本では解雇のハードルがとても高い。一方有期雇用は雇止め似合うなど雇用が不安定になりやすい。

*2:雇止めの法理というもので一定の年月雇用しているものや一定の回数契約更新しているものは解雇同様のハードルがある。しかしそれを訴えるためには裁判をする必要があり、生活が不安定な非正規雇用の人には荷が重い。

*3:通算の契約期間に応じて無契約期間の長さは変わります。詳しくは無期転換ポータルサイトを参照