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採用内定を取消されたらどうするべき?採用内定の意味とは

就職活動をしていて一番ホッとする瞬間は、企業から採用内定が出た時ではないでしょうか。試験や面接を経て、どうなるかドキドキしていた気持ちが解放され苦労が報われた気分になります。それだけ採用内定というのは重いものです。今回は採用内定の意味や取消された時の対処などを解説します。

採用内定の意味

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新規学卒や転職などの就職活動でもらえると安心する採用内定。もちろん求職者だけではなく、企業にとっても採用内定を出すというのは非常に重い意味のあることです。それだけに慎重さが求められます。

 

採用内定とは労働者として採用することを、正式な手続きの前に内々で決定することをいいます。確実とまでは言わないが、一応入社を約束しておくといったニュアンスですね。プロ野球で例えるとドラフト会議で指名した段階といえるでしょうか。正式な契約手続はこれからですが、ひとまず採用する気持ちはありますよ、という意思表示をすることです。

採用内定と労働契約の成立

採用内定の状態で労働契約は成立していると言えるのでしょうか。採用内定を出すということは、少なくとも企業としては働いてもらうことを前提にしています。かつては労働契約の予約であって契約そのものは成立していないと考えられていました。しかし現在では一般的には採用内定の時点で労働契約は成立しているとされています。ただし後述するように一定の条件下で内定取消しが成立することがあります。

 

 そのため採用内定の状態は労働契約は成立しているものの、企業側にも解約する権利を認めた「始期付解約権留保付労働契約」だと言われています。労働を開始する時期が決まっていて、その間に企業側が契約を解除をする権利もあるということです。ただし労働契約は成立しているためいつでもどんな理由でも採用内定を取り消すことができるというわけではありません。

採用予定者と採用決定者の違いとは

採用予定者と採用決定者には違いがあるのでしょうか。どちらも採用内定が出ている状態であることは同じです。そのことから単に表現の違いだけのようにも思えます。しかし両者の間には大きな違いがあります。

採用決定者の方が保護される

一般的に採用予定者については、採用を確定だとする意思表示がまだない場合を指します。あくまで採用を予定している、というだけです。内々定がこの状態に当たります。内定通知書をもらったというだけではまだ労働契約が成立したとまでは言えません。仮にこの段階で内定を取り消された場合、取消しについては慰謝料を認められることはあり得ますが、労働契約の成立までは認められないケースが多いようです。

 

これに対して採用決定者は入社にあたって必要な書類の提出や入社日の伝達、事前の研修内容や日程など具体的なことを企業から伝達されます。こうなると始期付解約権留保付労働契約が成立していると考えられ、労働者を保護するため取消しのハードルもグッと上がります。

採用内定取消しの実務

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もしも採用内定取消しとなった場合はどのような手続きになるのでしょうか。まず企業側から見ていくと、内定を取り消す事情が生じた場合は速やかに内定取消し通知を送る必要があります。内定取消し通知には、内定を取り消す理由や根拠をできるだけ詳細に記載する必要があります。書面だけで済ますというのもいささか誠実さを欠く印象になるため、できればきちんと面談をするべきでしょう。

採用内定取消しは解雇になるのか

逆に労働者側から見た場合はどうなるでしょうか。先述のとおり採用内定が決定している状態であれば労働契約は成立しているといえますので、内定取消しは解雇ということになります。解雇であれば労基法では30日前に解雇予告をするか、30日分(解雇日までの日数が30日に満たない場合はその日数分)の解雇予告手当の支払いが必要です。(もっとも現実には採用内定を取り消すにあたって解雇予告手当が支払われることはほとんどないでしょう。新卒の場合は実際の入社日まで日にちがあり予告期間を満たしていること、中途の場合も内定が成立していたか曖昧であったり、求職者が争わないことでうやむやになることが多いからです)

 

採用内定を得たということはその後の就職活動をやめているケースが多いと思われます。新卒の場合でまだ就活開始間もない時であればまだしも、9月や10月では再び就活を開始するのは大変です。中途採用の転職もまた一から転職活動をしなければならず生活面に与える影響は大きなものとなります。そこで一般的には採用内定取消しに伴う損害賠償を請求することが多いです。

ケース別採用内定取消しの理由

採用内定取消しはどのような場合に起こるのでしょうか。また、どのような理由の場合に認められるのかを過去の事例などをもとに説明します。

経営状況の悪化を理由とする採用内定取消し

企業側の事情により採用内定を取消す理由として多いのが会社の経営状況の変化や悪化によるものです。例えば採用者に就かせる予定だったポストが経営の合理化に伴いポストそのものが消滅してしまった、などの場合です。

インフォミックス事件(東京地裁判H9.10.31)

会社Aからスカウトされ、採用内定を得ていたがAの経営悪化を理由に内定を取消された事件。入社日まで2週間という時に内定を取り消され、勤務している会社にすでに退職届を提出済みで後戻りができない状態での内定取消しは社会通念上合理的ではないとして内定取消しは無効とされた。

 このように企業側の都合で採用内定を取消す場合には相当の理由が必要とされます。また取消し自体は有効とされても、損害賠償請求による慰謝料の支払いはまた別の話です。

採用内定者の不祥事などによる採用内定取消し

例えば新規学卒者であれば、単位が取得できなくて卒業ができなくなったとか現実に就労が不可能な状態であれば採用内定取消しもやむを得ないと判断されます。そのほかに心身の健康状態の悪化により就業できなくなったとか、経歴に虚偽記載があることが発覚した場合なども採用内定取消しが認められます。

 

最近ではSNSでの不適切な投稿などもチェックされています。バイト先でのいわゆる「バカッター」投稿も発覚すれば内定取消しになりかねません。もちろんそのような行為自体倫理的にアウトであるという意識が必要なのはいうまでもないですが。

採用内定辞退を迫られた

新規学卒者の就活で気をつけたいのが、企業側の都合による採用内定取消しであるにも関わらず、あたかも内定者の希望によって内定辞退したように迫る企業もあるということです。内定者の都合で辞退した、ということであれば企業は何ら補償をする必要がなくなります。またハローワークなどを通じて採用募集をかけている場合は、安易な内定取消しは今後の求人掲載にも影響が出ます。そのため内定取消しを避けたい企業が学卒者の無知につけ込む場合もあるのです。

下関商業高校事件(最一小判S55.7.10)

執拗な退職勧奨が違法とされた。3〜4ヶ月の間に10回以上の退職勧奨を行い、長い時は2時間近く拘束して説得をしてきた。また退職勧奨に応じないことで嫌がらせをして精神的苦痛を与えたと認められた。

上記判例は在職中の社員に対する退職勧奨ですが、採用内定を取消しではなく内定者の辞退とするよう企業が強要するのも同様の考え方が当てはまります。内定者の自由な意思によらず、執拗に強要することは違法であり内定取消しは無効となります。

採用内定を取消された場合の対処

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採用内定を取消された場合の現実的な解決を考えておく必要があります。仮に裁判で争い内定取消しは無効と判断されたとしても、その企業に入社したい気持ちは失せていることがほとんどではないでしょうか。そうとなれば、内定取消しで受けた損害に対しての慰謝料を受けて、他企業への就職を目指すことに切り替えたほうが現実的な判断といえるでしょう。

補償金の相場はいくらくらいか

では、採用内定取消しに対して損害賠償請求をした場合にどの程度の金額が相場かというとこれは結構難しい面があります。新卒なのか、中途なのかによっても違います。また中途でもどのような役職・待遇で予定されていたのかという面も金額に影響を与えます。

 

新卒の例では、ある不動産会社が景気の悪化を理由に新卒の採用内定を取消した事例で最終的に55万円の支払いを命じられています。内定取消しにより1年就職が遅れてしまう可能性を考慮すれば、55万円では安いのではないかとも感じます。

 

中途採用で役職者、例えば営業部長として月額50万円の給料を予定していた場合などは少なくとも給料の2〜3ヶ月分に相当する額は必要でしょう。場合によっては半年〜1年分を請求されることも考えられます。それだけ採用取消しが労働者に与える影響は大きいということでもあります。

まとめ

  • 採用内定は始期付解約権留保付労働契約
  • 採用決定者の取消しは解雇と同等
  • 採用内定取消しに対する慰謝料請求は可能。新卒の場合の金額はそれほど高額にはならない傾向

内定といえども労働契約は成立していると考えるのが妥当です。契約である以上は相当な理由なく一方的に破棄することはできません。労使双方慎重に誠実に契約を尊重する義務があります。