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競業避止には従う必要があるか?認められるラインとは

勤務先を退職するときに「競業禁止の誓約書」というものを書かされることがあります。競業禁止と言われてもピンとこず、いまいちよくわからないままサインをしてしまうこともあります。転職にも影響を与えるかもしれない競業避止について理解をしておくことが必要です。

 

競業避止とは?

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そもそも競業避止とはどういったものなのでしょうか。競業とは「営業上の競争」という意味です。例えば自動車製造・販売でトヨタ自動車とフォルクスワーゲンは競業している、といった具合で使用します。

 

競業避止とは、自分が勤務している会社と同業他社への転職を禁止するということです。特に在職中は、競業するライバル会社でこっそりアルバイトしたり自ら開業したりすることはできません。この時は労働者は競業禁止の誓約書を書くまでもなく契約の信義則上、競業を避ける義務を負うものと考えられています。

 

また退職後も一定の条件のもと、競業する他社への就職を禁止する目的で競業避止に関する誓約書を書かせることがあります。この誓約書では一般的には競業を禁止する期間や場所、業務内容等を指定されています。退職にあたって必ずサインするように言われ、内容がよくわからないまま署名する人が多くいます。しかし安易にサインしてしまっていいのかよく考える必要があります。

企業が競業避止をする理由を知ろう

企業が競業避止をするのはなぜでしょうか。先述のとおり競業とは平たくいえば同業他社に就職することです。企業からすると営業上の重要な秘密ー顧客情報やノウハウーが漏れてしまうことを警戒します。

 

これらの情報が漏れることで、自社の収益に悪影響があったり他社への優位性が損なわれるかもしれないからです。確かに顧客情報や業務上のノウハウは企業が長年かけて手に入れた財産です。それを不正に利用した場合は不法行為と判断される可能性があります。

競業避止と職業選択の自由どちらが優先されるか

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さて、競業避止は社員が在職中は当然のように効力が発生しています。これは使用者も労働者もお互いに誠実に労働契約を遵守する義務があるからです。契約の相手方である使用者に故意に不利益を与えるような行動は慎むべきでしょう。

 

これに対して退職後の競業避止はどうなるのでしょうか。退職後も当然に競業避止が成立するとなれば就職の範囲もかなり限られることになります。実際ある程度知識や経験を持っていることから同じ業界内で転職する方が未知の業界に行くよりは容易です。そのため同業他社へ転職する人の方が多い傾向にあります。退職後も競業避止の縛りが当然に有効であるとしたら、転職活動もより難しいものになります。

 

しかし日本国憲法では職業選択の自由が認められています。競業避止と職業選択の自由はどちらが優先されるべきなのでしょうか。もしも無制限に競業避止を認めてしまうと労働者が受ける不利益が大きすぎることから、退職後の競業避止に関しては一定の条件のもとで成立する、とされています。少なくとも競業避止に関する契約上の特別な根拠が必要です。

どのくらいの期間が妥当か

競業避止に関する特約を結んだとして、どのくらいの期間競業できないものでしょうか。競業避止に従うと、職業選択に制限がかけられひいては生活上に困難をきたすことも考えられるため必要以上の長期間にわたるものは認められません。

フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地判S45.10.23)

各種冶金用副資材の製造販売をする会社が、製品開発や販売業務に従事していた社員と退職後2年間の秘密保持と競業避止の特約を結んでいたが、業務内容や顧客が競合する同業他社に就職し、取締役に就任したことに対して特約違反として競業行為の差し止めを求めたもの。

結果は元労働者側敗訴。特約は有効であり2年間という期間も比較的短期間と判断された。

上記の判例では、2年間は許容範囲とされました。特殊な業界で顧客や業務内容が重なることが多いところでは1年以上の期間でも認められるということでしょう。どういった会社でどのような業務内容なら何年間認められるという基準があるわけではありません。個々の事情を勘案することになります。場合によっては2年は長いため、無効とされることもあります。

競業禁止が認められる場合と認められない場合の違い

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どういった場合に競業避止の特約が有効になるのでしょうか。判断材料の一つに在職中の地位や職務内容があります。企業が競業避止を課すのは、営業上の秘密や顧客情報が漏れるのを防ぐためです。つまりそういったことを知る立場にない人であればそもそも競業避止の必要性がないことになります。

 

例えばパート・アルバイトや平社員がそれほど重要な機密情報を知り得ることは通常ありません。そのためパート・アルバイトや無役の社員の場合は退職時に競業避止の誓約書提出を求められてもそれほど気にする必要はありません。仮にAというフランチャイズチェーンのハンバーガーショップで一般社員として勤務していたとします。退職して、Bという別のハンバーガーチェーンに一般社員として入社したとしてA社にとってどれほどの脅威になるでしょうか。このような場合競業避止自体があまり意味をなしません。

 

逆に仕入れ価格の決定に関わっていたり、味の調合など企業秘密を知り得る立場であれば競業避止が有効になる可能性があります。ただし競業避止自体は職業選択に制限をかけることになりますので、退職金を上乗せするなど、労働者が受ける不利益への代償が必要になってきます。東京リーガルマインド事件(東京地決H7.10.16)のように代償措置が十分でなかったり、制限の範囲や期間、場所等が広すぎる場合は競業避止の特約自体が無効と判断されるケースもあります。

 

ただ単に退職する社員への嫌がらせ目的で競業避止の誓約書を書かせるようなことはやはり許されないと考えるべきです。この場合はたとえうっかり誓約書にサインしてしまったとしても無効の可能性が高いのでそれほど気にする必要はありません。そもそもこのような誓約書を書けと言われても、法律的には書かなければいけない義務はないので拒否することももちろん可能です。

まとめ

  • 競業避止が認められるには高度な理由が必要
  • 必要以上に長すぎる期間や、代償措置のない特約は無効の可能性が高い
  • アルバイトや一般社員が適用されることは考えにくい、サインを拒むことも可能

競業避止というと聞きなれない言葉で、つい身構えてしまうかもしれません。しかし意味を理解して、誓約書に署名する前に しっかりと考えることができるように正しい知識を身につけておきましょう。