働き方の変

働き方を変えるための準備としての知識

減給の制裁とは

懲戒処分の種類の一つに減給処分があります。減給の制裁に関しては、労基法に条件が定められています。知っているようでしらない減給の制裁について解説します。

減給の制裁ってどんなもの?

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減給とは懲戒処分の一つで、一定の金額を給料から差し引くことです。平たく言えば罰金ということです。たとえば無断欠勤をした場合に減給の制裁として〇千円を次の給料から引かれる、といった具合です。

 

遅刻や無断欠勤などをして懲戒処分を受けてしまうと、減給の制裁によりその月の給料が減ってしまいます。それが頻繁に起こってしまうと生活ができなくなることもあり得ます。減給の制裁を科すことは、問題を起こさないようにする抑止力としての意味もあるのです。

減給額に限度はあるのか

減給の制裁には抑止力として一定の効果はあります。しかし一方で際限なく制裁を科すことを認めると、労働者の生活に支障が出てしまいます。そこで労基法では減給の制裁に関して一定の限度額を設けています。

 

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

 

 労基法では第91条で上記のように減給の制裁について定めをしています。ポイントは二つあります。

減給額は1日分の半額を超えてはいけない

まず第一に、減給処分を科す場合の金額は1事案につき平均賃金の1日分の半額を超えることはできません。

 

仮に1日分の平均賃金が10,000円だった場合、減給の結果給料から差し引けるのは5,000円までということになります。したがって平均賃金が10,000円の場合に減給処分として8,000円を給料から引きてしまうと労基法違反ということになります。

減給は1カ月の給料の1/10を超えてはいけない

第二に減給の総額が一賃金支払い期間における賃金の総額の1/10を超えてはならない、ということです。ザックリ言うと毎月の給料額の1/10までしか減給することはできないということです。

 

月給が25万円であれば、1ヶ月の間に減給の制裁として控除することができるのは25,000円までです。

 

このように減給の制裁には上限が設けられています。これは一度に多額の罰金を科すと、労働者の生活に与える影響が大きいため、上限を設けて保護する意味合いがあるのです。

減給の制裁を科すための要件

減給の制裁を科すためには、条件があります。

就業規則に定められている

減給の制裁を科すには、就業規則に定めておく必要があります。懲戒処分の一つとして減給処分があること、その場合の減給額などを規定しておかなければなりません。もしも就業規則に懲戒処分についての規定がない場合は、懲戒処分ができないということになります。

処分に妥当性があること

また、懲戒処分の原因となる行為と処分の重さのバランスにも気を配る必要があります。例えば歩行者が赤信号を渡ったとして警察に捕まったとします。そのときに罰金10万円だと言われたらどう感じるでしょうか?

 

減給処分は給料から罰金として一定額を引くものです。社員の生活に与える影響も大きいものです。処分を下す際には慎重な判断が求められます。

複数回の懲戒に該当する事案がある場合

1ヶ月の間に複数の懲戒相当の行為があった場合にはどうなるのでしょうか。懲戒処分は一つの事案に対して複数の処分を科すことは原則としてできません。遅刻1回について減給と出勤停止の二つの処分はできないということです(後述のとおり例外はあります)。

 

一方で「無断欠勤1回につき減給処分とする」と定められていた場合に複数回の無断欠勤があるケースを考えてみます。1ヶ月の間に5回無断欠勤があったとします。そうすると5回減給処分を受けることになります。

 

ここで問題になるのが「減給の総額が一賃金支払い期間における賃金の総額の1/10を超えてはならない」ということです。

 

例えばある社員の月給が25万円で平均賃金が12,000円、1回の減給処分額が仮に6,000円だったとします。

 

5回の無断欠勤で減給額は6,000円×5回=30,000円になります。しかし月給の1/10が言及できる限度額となりますので、実際は25,000円が減給額の上限となります。そのため今回の給料で控除出来るのは6,000円の4回分24,000円までになります。

 

では残りの1回分はどうなるのでしょうか。上限に引っかかるため不問にするということになるのでしょうか。

 

この場合は月をまたいで減給することが認められています。つまり翌月の給料から残った5回目の6,000円を控除すれば良いことになります。1/10の限度というのはあくまで一賃金支払期間におけるものです。

 減給の制裁と最低賃金の関係

減給の制裁と最低賃金の関係についても理解しておきましょう。減給された結果、支給された給料額が最低賃金を割る場合も考えられます。このような時は最低賃金違反となるので減給はできないのでしょうか。

 

最低賃金を割っているかどうか判断するにあたって見るのは総支給額です。つまり減給された後の金額ではなく、減給前の支給予定額で判断します。したがって、減給の制裁の結果最低賃金額を下回っていたとしても、当初の総支給予定額が最低賃金を上回っていれば問題ありません。

出勤停止で無給になることは減給の制裁に当たるのか

懲戒処分の一つである出勤停止。文字通り一定の期間出勤を禁ずる処分です。出勤停止となる期間中は給料が出ないのが一般的です。これが結果として減給処分にも該当するのではないか、という問題があります。

 

賃金に関する原則として「ノーワーク・ノーペイ」というものがあります。これは働いてない期間に対しては賃金が発生しないという考え方です。この原則に当てはめると出勤停止処分により勤務しない期間の給料がないことについては減給処分には該当しないということになります。

減給の制裁と他の懲戒処分を併せて科すことは可能か

一つの事案に対して複数の懲戒処分を科すことはできるのでしょうか。

 

例えばある行為に関して一度減給処分を下し、後から出勤停止も追加するというような処分の仕方は認められません。一度下した決定に後から自由に追加することは公平な判断とは言えず処分を受ける者にとって不利益が大きいためです。

 

これに対し一つの事案に関して最初から複数の処分を下すことは可能です。そのための条件としてあらかじめ就業規則に「事案によっては複数の懲戒処分を科すことがある」というような条文を定めておく必要があります。

 

ただし就業規則に定めがあっても、複数の懲戒処分を科すことは慎重に検討しなければなりません。先述のとおり懲戒処分には行為に対する妥当性が求められます。例えば減給と出勤停止の二つを科す場合はよほど悪質性が高い事案に限られるでしょう。

複数回の遅刻で欠勤1日分の扱いとすることは可能か

3回の遅刻で1日分の欠勤とみなす、というような定めをすることは可能でしょうか。欠勤扱いということは、1日分の給料は発生しないということになります。

 

仮に遅刻が10分程度のものであった場合、3回の遅刻だと30分です。それで1日分の給料を減給するというのはやはり問題があります。実際の不就労時間を超えて給料を差し引くのは労基法第24条に定める「賃金全額払い」の原則に反することになります。

まとめ

・減給の金額には上限がある。平均賃金1日分の半額かつ一賃金支払期間の総額の1/10

・減給処分を行うには就業規則等に定めがないといけない

・その月で消化できない場合は翌月以降にまたがっての処分も可能

 

法律を知って正しい懲戒処分の運用を行う必要があります。

以上、働き方の変でした!

 

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