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試用期間とは何か?お試し期間としての意味や延長、解雇などについて

多くの企業では社員採用後の一定期間を試用期間としています。試用期間中に適性を見て、その後の配属の参考としたり場合によっては本採用に至らないこともあります。試用期間とは何か、法律上の根拠やよくある勘違いについて解説します。

 

試用期間とは?

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試用期間とはそもそもどういったものなのでしょうか。実は試用期間については労働基準法上の特別な決まりはありません。労基法で試用期間についての言及されているのは解雇予告との関係においてです。通常、解雇をする場合は30日前に予告をしなければなりませんが、採用して14日以内の試用期間中であれば解雇予告は不要だとされています。これが労基法における試用期間の捉え方です。

 

逆にいえばそれ以外のことについて、例えば試用期間の定義や長さ等については特に決まりがありません。そのため会社によって試用期間の意味合いや期間は異なります。一般的には社員を雇用してから本採用するかどうか決めるためのお試しの期間と考えられています。

 

試用期間が終了した時点で自社の社員として相応しくないと判断した場合は本採用拒否をして雇用関係を終了させることになります。そのため試用期間は「解約権留保付労働契約」と言われています。これは労働契約は成立しているものの、条件によっては会社は解約権を行使できる余地がありますよ、ということです。

 

このように試用期間は会社の社員としての労働契約は成立しているものの、能力や適性を図るためのお試し期間という意味合いがあります。

試用期間中は正社員ではない?

試用期間中であっても、労働契約は成立しています。正社員として入社した場合でも試用期間中だからまだ正社員ではないということはありません。

試用期間中の給料が本採用ごと違うのはアリか

求人募集を見ていると、試用期間中と本採用後の給料が違うことがあります。例えば試用期間中は時給制で、本採用後は月給制になるとか試用期間中は手当てがつかず基本給だけ、というようなものです。

 

これまで見てきたように試用期間は採用した社員の能力や適性を図る目的で設けられているのが一般的です。会社としても社員がどのくらいの能力があるかまだわからない状態なので、給料も低めに設定したいという気持ちも理解できます。

 

もちろん試用期間中の労働条件が本採用時と異なるのであれば、募集の段階できちんと明示しなければなりません。試用期間中は待遇が異なることを伝えずに入社後に「実は…」と最初に提示した労働条件より低い条件を適用することは許されないといえるでしょう。

試用期間にまつわる勘違いとは

試用期間について勘違いをしているケースも見受けられます。理由としては、試用期間中も正社員であるということを正しく理解していないからというのが多くを占めます。

試用期間は年次有給休暇の算定から省く?

特に多いのが、年次有給休暇の在籍期間を算定するにあたって試用期間を省くケースです。年次有給休暇は入社後6ヶ月を経過すると付与されます。例えば入社が4月1日、試用期間3ヶ月、試用期間終了後無事本採用された場合で考えてみましょう。

 

通常であれば最初の年次有給休暇が付与されるのは入社から6ヶ月経過した10月1日です。試用期間中をこの算定期間に含めず、本採用した7月1日から数えて6ヶ月後に初めて年次有給休暇を与えるとしているケースがありますがこれは間違いですので注意が必要です。

試用期間だから自由に解雇できる?

試用期間は先述のとおり社員としての適性を図るためのお試し期間です。もしも適性がないと判断した場合にはいつでも雇用を打ち切ることはできるのでしょうか?

 

確かに解約権留保付労働契約と考えられる試用期間については、本採用後よりも解雇の判断がやや広く認められていると考えられています。しかし解雇である以上一定の合理的な理由が求められます。試用期間中だからいつでも、どんな理由でも解雇してもいいというわけではありません。

試用期間の長さはどのくらいが妥当か

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試用期間の長さはどれくらいにするのが良いのでしょうか。一般的には3ヶ月から6ヶ月程度としているところが多いようです。試用期間については労働関係法規による決まりというのはありません。そのため、試用期間の長さも会社ごとに任意に設定できるのです。

 

もっともあまりに長すぎる期間を設けることは好ましくないとされています。例えば1年を超える期間を試用期間とするのは採用された社員を心理的にも立場的にも不安定な状態に置くものですので避けるべきでしょう。

 

重要なのは試用期間を何のために設けるのかをはっきりとさせることです。自社の業務を最低限習得するのに必要な能力、社員に担当させる業務内容と負荷の程度などをきちんと把握した上で試用期間を定める必要があります。他社がやっているから何となく、というのが一番危険な考え方であることに注意しましょう。

試用期間を延長できるか

例えば試用期間が3ヶ月間だったとします。しかしその間に対象となる社員について業務能力や対人関係の面で本採用しても問題ないと確信できなかったとします。しかし積極的に雇用関係を終了させるほどではなく、もう少し様子を見たい。こうした場合に試用期間を延長することは可能なのでしょうか。

 

試用期間については、延長をすることは一定の条件を満たしていれば可能です。条件とは、就業規則等に試用期間を延長することがあるということをあらかじめ定めておくことです。特に何の定めもしていない場合は試用期間を延長する根拠を欠くことになり延長することはできません。

 

また延長した後の追加試用期間の長さも、あまりに長いと認められない可能性があります。3ヶ月の試用期間を延長するのであれば、長くても3ヶ月以内とするのが望ましいでしょう。

試用期間中の解雇と本採用拒否

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試用期間中の解雇については、先述のとおり採用後14日以内であれば解雇予告をすることなく即時の解雇が可能です。14日を超えると、試用期間中であっても30日前の解雇予告または30日分(解雇予告期間が30日に満たない場合は不足日数分)の解雇予告手当の支払いが必要とされています。

 本採用拒否の場合の解雇予告

試用期間を満了して本採用をしない場合であっても、解雇には違いがありませんのでやはり30日前の予告は必要となります。しかしそうすると試用期間の途中に解雇予告をするのか、という疑問が生じます。仮に試用期間が3ヶ月であった場合、解雇予告を適正にしようと思えば試用期間が2ヶ月終了した時点で予告をしなければなりません。しかしそれでは残りの1ヶ月間勤務する意味を見出せないことになりかねません。また、試用期間が1ヶ月であった場合はそもそも30日前の解雇予告が不可能ということになってしまいます。

 

このような場合は3ヶ月の試用期間終了後30日を解雇予告期間として追加勤務するよりも30日分の解雇予告手当てを支払い雇用関係を終了させるというのが現実的な解決方法です。

解雇理由や本採用拒否の理由は合理性のあるものか

試用期間中の解雇や本採用拒否は本採用後の解雇よりは広く認められやすいといっても、そこには一定の合理性が求められるのはいうまでもありません。

 

労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念条相当であると認められないときはその権利を乱用したものとして、無効とする」と定めています。これは会社が解雇権を濫用するのを防ぐために設けられた考え方です。

 

試用期間中の解雇や本採用拒否は、一般的には労働者の能力不足や対人関係能力を問題として行われます。しかし最終的な判断に至るまで、会社側にどれだけ教育や更生の機会を社員に与えたかというのが問われます。職務能力が基準に満たないのであれば、会社が求める基準がどういったもので、それに対しどこが不足し、どのようにすれば改善されるのかを指導しなければなりません。そうした会社側の努力を抜きに一方的に雇用関係を終了させることはやはり解雇権の濫用として認められないということです。

有期雇用契約に試用期間を設けることは可能か

労働契約には様々な形があります。契約期間に定めがある有期雇用契約を採用している会社もたくさんあります。では、有期雇用契約に対して試用期間を設けることは可能なのでしょうか。

 

もともと期間に限りがある労働契約なので、社員として能力等に不足があるのであれば期間満了で更新しなければ良いのではないかとも思えそうです。しかし採用に関して慎重を期したいという会社側の思惑も全く理解できないことはありません。

 

そのため有期雇用契約であっても、試用期間を設けることは認められています。とはいえ向き雇用契約に比べると試用期間の長さについては慎重に決めたほうが良いでしょう。たとえば6ヶ月の有期雇用契約で3ヶ月間を試用期間とすると全体の半分が試用期間ということになります。このような試用期間が直ちに無効というわけではありませんが、問題がないともいえません。有期雇用契約で試用期間を設けるのであれば1ヶ月程度に留めるのが無難です。

まとめ

・試用期間の長さは3〜6ヶ月が一般的

・試用期間中の解雇も解雇予告または解雇予告手当てが必要

・年次有給休暇は試用期間の最初から通算する必要がある

 

試用期間は会社が社員としての適性を確認する期間です。お試し期間といえども自社の社員であることに変わりはありません。試用期間を有意義なものにするために、惰性で設けるのではなく意図や目的を再確認し適正に運用する必要があります。